連載 No.59 2017年08月06日掲載

 

写真を「見る」と「買う」


東京都内のギャラリーで開かれていた企画展が2カ月間の会期を終えた。

写真展は個展やグループ展が一般的で、企画展という言葉はなじみが薄いのではないだろうか。

当連載の担当者からも「グループ展では?」と、告知内容に関する確認があった。



正式な展示名称ではないかもしれないが、ギャラリーが企画したテーマに基づいて作家や所有者に出品を依頼したり、

収蔵されている作品をまとめて展示するわけだから、このような呼び名が適当だと思われる。



今回は60点ほどのモノクロ作品で、40人近い作家によるもの。

ギャラリーで展示経験のある作家だけでなく、

オーナー自身が海外で収集したプリントや、古典ともいえる有名写真家の作品、

そうかと思うとギャラリーに売り込みに来た新しい作家など、多様な作品が展示された。



それだけ聞くとまとまりがない印象だが、決してそんなことはなかった。

作品のセレクトはもちろんだが、

全てがモノクロームの作品ということが少なからず影響しているのではないだろうか。



この企画展の入場料は600円だった。

公営の美術館や百貨店のギャラリーではなく一般の画廊だったから、

入場料を払って写真を見ることに抵抗があったかもしれない。

しかし一日に何件ものギャラリーの”はしご”をしながら、ついでに寄って目を通すというにはもったいない展示のように思う。

最近有料のギャラリーをちらほら見かけるのは、写真をじっくり見てもらいたいという主催者側の考え方かもしれない。

それだけが理由ではないと思うが、入場者の滞在時間は長く、購入を検討する人も多かったようだ。



貴重なコレクションは非売品だが、現役の作家のプリントは購入できるものが多かった。

価格は5万円前後から10万円が多く、それ以上はぐっと高価なものもあった。

「海外に比べて日本では写真は売れない」とか、「日本人は写真を買わない」という人もいるが、私はそうは思わない。

展示期間中は多くのセールスがあり、どちらかといえば、販売に熱心な作家の作品が売れていたような気がする。

写真が売れにくいという話は、購入者ではなく、写真家のほうに理由があるのではないだろうか。



「素敵な写真を見てきた」と、「素敵な写真を買ってきた」というのは、まったく違う意味を持って伝わっていく。

購入者が増えることが美術界での写真お立場を変えていくことにつながると考えている。

他の美術作品のように、写真を所有して生活の中に取り入れるのはなじみの薄いことかもしれないが、

目線を変えてみると自由で自分なりの楽しみ方ができるはずだ。



今回の企画展で私の作品は2点販売できた。そのうち1点は、この連載を読んで来場した高知の方が購入されたと聞いた

とてもうれしいエピソードだ。